インドネシア 外食産業 海外進出

クールジャパン機構の55億円をかけた海外進出支援は成功するのか?

前回前々回と、海外進出はなぜ失敗するのかについて、自らの経験を交えて記事を書いて来たが、ちょうど先日16日に、「クールジャパン機構のGojekへの55億円出資」のニュースが飛び込んで来たので、クールジャパン機構が日本食事業者に対して進出支援をするという願ってもない良い題材として、この進出支援が成功するのか、筆者の意見を述べて行きたいと思う。

まず、実際クールジャパン機構が発表したリリースを紹介する。なお、本件は食以外のコンテンツにも言及されていたが、筆者の経験上で語れる食にフォーカスしていくとする。

・クールジャパン機構は、東南アジアを代表するマルチサービス・デジタルプラットフォームを展開する Gojekに対し、50 百万 US ドル(55 億円相当)を出資

・本件出資により、食の分野については、フードデリバリーの「GoFood」で飲食店を集めた屋台村の運営事業である「GoFood Festival」などにおいて、その顧客ネットワークとデータを駆使して日本食事業者の出店機会の拡大や関連イベントの開催を支援します。これにより、日本食事業者に対してインドネシアにおける効率的な進出・展開機会、店舗運営の機会を提供し、同国において日本食の魅力がより浸透しやすいような店舗構成の実現へ貢献することを目指します。 

2019年10月17日 クールジャパン機構のプレスリリースより

Gojek(ゴージェック)について詳しく知りたい場合は、本日は詳しく説明しないので、下記の記事を参考にして頂きたい。

  1. インドネシア宅配革命 ~Gojekの誕生~
  2. インドネシア宅配革命 ~フードデリバリー市場編~

この発表から、最初に成功の定義を明確化しておくと、クールジャパン機構の55億円をかけた海外進出支援の成功の定義は「日本食事業者のインドネシア進出促進と、同国における日本食の普及」である。それを踏まえて成功するのかを考えると、2つの大きな疑問点が浮かび上がる。

まず、1つ目は橋渡し役はいるのか?である。

橋渡し役はクールジャパン機構でも無いし、もちろんGojekでも無い。ざっくり例えると、クールジャパン機構は55億円を使って、インドネシアに日本を優遇した戦いの場を作ってもらうようなものである。優遇された戦いの場を作るのに55億円もいるのかというツッコミは置いておいて、そもそも戦いの場への出場権は自分で用意しなければならず、戦いの場があるからと言っても、すぐに出場することはできない。この出場権の取得は、インドネシアでは隣国に比べて特に難しいのである。その理由は、ズバリ外資規制だ。インドネシアは海外進出に対して少々厳しい。

最近緩和の傾向にはあるが、外食産業においても例外なく外資規制は存在する。2016年に、外食産業においては、外資資本100%でも会社設立可能となったが、国内保護を目的に最低投資額(100億ルピア以上) と最低資本金(25億ルピア以上の払込)という条件がついている。つまり、進出するからには1億円以上投資して、たくさんインドネシア人を雇用してねということである。では、1億円を用意できない会社はどうするかと言うと、インドネシア人株主の名義貸しによって、ローカル企業を設立して事業を行うと言う方法がある。しかし、それも裏切りや乗っ取りのリスクが存在する。

ここで活躍するのが、橋渡し役である。信頼できる橋渡し役がいれば、その橋渡し役の名義で戦うことができるし、橋渡し役にノウハウを預けて戦わせることもできたりする。クールジャパン機構のプレスリリースの言葉を使って具体的に言うと、橋渡し役の名義で「GoFood」や「GoFood Festival」への出店も可能となるのだ。もし、このような橋渡し役が用意されているなら、1つ目の疑問は解消される。

御厩川岸より両国橋夕陽見|葛飾北斎|富嶽三十六景

次の2つ目の疑問は、その橋渡し役が、橋渡しをするための知識と経験を持ち合わせているのか?である。

舞台は激流の成長国家インドネシアである。ただ、名義を借りるだけでは、激流を乗り切ることはできない。さらにその激流の中で、変化の激しい飲食市場と、IT(テック)市場という2つの大渦が存在する。Gojekは飲食企業ではなくプラットフォームである。外食産業のプロフェッショナルでは無い。2つの大渦を攻略するためには、知識だけでは無く経験も必要である。実際にGO FOODやGO FOOD Festivalに出店した経験があればなお良い。筆者の経験を紹介すると、GO FOODの事業者登録や、登録情報変更でとてつもなく時間がかかるケースに遭遇した。トップダウンで解決できると思いきや、Gojekはスタートアップとは言え、従業員3000人を超える大規模組織である。中小事業者は後回しにされ、部署がまたがったオペレーション問題はすぐに解決できなかったりする。問題の大小関わらず、アクション実行者としてあらゆる種類の問題を経験していることが望ましい。

以上の2つの疑問点は、前回前々回のブログで言うところの情報収集とアクションの部分である。それに加えて、官民の団結力があれば成功の確率は一気に高まると考える。ただ、今回のクールジャパン機構の発表を読む限りでは、進め方の詳細はほとんど書かれていないので、今の段階では成功するか判断できない。よって、結論として成功するのか?は、素晴らしい橋渡し役がいれば成功する!である。

逆に、もし橋渡し役がいなかった場合、いなくても何とかやらないといけない場合も考察しておくと、橋がないので、既にインドネシアに進出している日系外食企業が中心にならざるを得ないと思われる。それと、ごく少数の自力で泳いで来るクレイジースタートアップ(笑)。既に進出している企業(特に有名企業)を支援して「海外進出支援」とは、ちょっと無理矢理感に溢れている。

以前クールジャパン機構はラーメン店「一風堂」を運営する力の源ホールディングスに約7億円を出資し、IPO後に約12億円の株式売却益を得たことがあったが、GojekももちろんIPOすると思われるので、今回の55億円出資が100億円、200億円になったーという結果は想定できる。ただ、成功の定義を冒頭の「日本食事業者のインドネシア進出促進と、同国における日本食の普及」とするならば、海外ユニコーンに一気に投資するより、橋渡しができる日本企業や小資本で頑張る日系スタートアップに投資する方が目的達成できるのではないかと個人的には思う。

クールジャパン機構、「一風堂」と提携解消

2017年10月19日 日経新聞の記事より

クールジャパン機構内部の事情は正直よくわからないが、ともかく海外進出の題材としては非常良かったので、引き続き海外挑戦者に役に立つような記事を書いていきたい。

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