筆者には、ここ1-2年、ジャカルタに住んでいてずっと不思議に思うことがある。
カフェ(コーヒーショップ)が、目に見えてどんどん増えているのである。5年前と現在とでデータがあれば比較したいぐらいだ。筆者はほぼ毎日バイクタクシーに乗っていろんな道をクネクネ通るのだが、こんな所にカフェができたのかと毎回驚く。当然、潰れるお店もあるのだが、開店数の方が圧倒的に多い印象である。カフェが増えだした当初は、富裕層がオーナー自慢のためにやっているものだと思っていたが、ここまで増えてくると話は違ってくる。本日は、雨後の筍のごとく生まれるカフェを調べて、この起業力たるやを紐解いていく。
前回の記事で、飲食店はGojek(ゴジェック)とGrab(グラブ)のデリバリーのおかげで起業しやすくなったことはご紹介したが、カフェについて色々調べている中で、一般的なカフェ起業のし易さ以外に、インドネシアでカフェ起業が多い理由をついに発見した。
一般的なカフェ起業し易い理由
- 小資本で始められる
- 小さなスペースで始められる
- オペレーションが簡単
- 在庫ロスが少ない
インドネシアでカフェ起業が多い理由、ズバリ「簡単起業キット」の存在である。
またの名を「フランチャイズ」というが、フランチャイズというと読者の皆さんは、なーんだという感じかもしれない。しかし、インドネシアのカフェ市場となると、少々異なる様相を呈する。
まず、フランチャイズ募集を紹介する。
これは「Akademi Kopi」というカフェのフランチャイズ募集ページから切り取ってきた。現在プロモーション中で、普段は800万ルピア(約64000円)かかるフランチャイズ加盟初期費用が、なんと590万ルピア(約47000円)というのだ。フランチャイズと言えば、数百万円ぐらいかかるものかと筆者は想像していたが、10万円もかからず出来てしまうパッケージが存在するのである。まさに簡単起業キットではないだろうか?
月々のシミュレーションに関しても、紹介されていたので、解説しておく。まず、590万ルピアに含まれている内容だが、ブース費用、ドリンク250杯分の材料、ブランドライセンスが含まれており、写真のようなブースが出来上がる。1日の販売数例が70から80杯ということなので、約3日分の材料ということになる。これに加えて、家賃が100万ルピア(約8000円)、スタッフ人件費が150万ルピア(約12000円)、その他販売管理費が200万ルピア(約16000円)で、初月の投資金額は合計1040万ルピア(約83000円)というシミュレーションだ。あくまでシミュレーションなので、場所によっては家賃は上下するし、人件費も同様である。人件費に関して、2019年度のジャカルタ最低賃金である394万972ルピア(約31500円)を割っているが、会社で雇うわけではないことを想定してのことだろう。
続いて、ランニング費用だが、1日あたり12000ルピア(約96円)のコーヒーを60杯、8000ルピア(約64円)コーヒー以外を20杯売ると仮定した場合、原価はそれぞれ6800ルピア(約54円)と5200ルピア(約42円)で計算すると、月間売上総利益(粗利)は、1086万ルピア(約86900円)とのことである。これはつまり、1ヶ月で投資金額をペイしますよということになる。
どのくらいの率でこのシミュレーション通りになるのかは謎だが、少なくとも店舗数を増やしているブランドは、いくばくかの成功事例を生み出していると考えられる。
ということで、急拡大に成功し、今なお成長行真っ只中のコーヒーフランチャイザーを2つ紹介しよう。
- Kopi Janji Jiwa(500店舗以上)
- 母体:PT Luna Boga Narayan
- 創業:2016年1月
- 創業者:Billy Kurniawan(Founder & CEO)
母体のPT Luna Boga Narayanの創業は2016年1月だが、コーヒーショップのKopi Janji Jiwaは2018年6月であり、なんと1年で300店舗まで到達するというモンスターフランチャイザーである。そして、2019年10月現在、彼らの公式インスタグラムアカウントによると、500店舗以上まで拡大しているとのこと。創業者のBilly Kurniawanはインドネシアの高校を卒業後、米シアトル大学でマーケティングとフランチャイズを学び、本国インドネシアに戻って外資系広告代理店に就職。そこで、食品系企業の広告を担当し、1年で退職。退職してからは、様々なフランチャイズ事業に関わり、Kopi Janji Jiwaなど複数ブランドのフランチャイズ事業を展開している。
インドネシアでスターバックスは何店舗あるかご存知だろうか?実は、今年の4月時点で400店舗到達である。1号店ができたのが2003年なので、400店舗まで16年かかっているが、スタバはスタバで非常に素晴らしいと思う。しかし、そんな凄いスタバの店舗数を、あっさり1年ちょっとで抜き去ってしまうのが、インドネシアのフランチャイズパワーである。
- Kedai Kopi Kulo(300店舗以上)
- 母体:Kulo Group
- 創業:2017年12月
- 創業者:Michael Bunyamin, Clement Mathias, Elsheca Herrera, Andreas Tony
Kulo Groupが展開するコーヒーシップ「Kedai Kopi Kulo(コピクロ)」は、先ほどのKopi Janji Jiwaより少し早い2017年12月にオープンし、現在300店舗以上展開している。コピクロは開始からわずか5か月で、GO FOODの新店舗オーダー数トップを記録し、急成長を果たした。もしかすると、Kopi Janji Jiwaも彼らのデリバリーフードを活用した躍進を参考したのかもしれない。
コピクロに関しては、詳しいフランチャイズ情報が見つかったので、詳しく解説していきたい。最初に紹介したAkademi Kopiは590万ルピア(約47000円)の初期投資でオープンできるパッケージであったが、コピクロのパッケージは1億2500万ルピア(約100万円)である。メニューはアボカトコーヒー、ミルクコーヒー、ブラックコーヒー、チーズコーヒー、チョコレートアイスなどあり、共同創業者によると、当時珍しかったアボカトコーヒーが人気とのこと。価格は12000ルピア(約96円)から高いもので27000ルピア(約216円)。売上は1日200杯で約400万ルピア(約32000円)が期待でき、損益分岐点(BEP)まで3~4ヶ月が想定されるようだ。
こちらはコピクロの実際の店舗で、サイズは見たところ3m × 3mの小さいスペースで、筆者が訪れた際は2人のスタッフで営業されていた。Akademi Kopiは学園祭のブースのような感じであったが、コピクロは小さなコンテナという印象である。コンテナサイズなので、家のガレージでも始められるし、実際この店舗も駐車場に設置したような形であった。
そして、このコピクロはジャカルタだけで無く、バンドゥン、ジョグジャカルタ、スマラン、スラバヤ、ロンボク、カリマンタンに広がっている。Kopi Janji Jiwaも50都市に拡大しているので、やはり短期間で何百店舗も拡大するためには、広大なインドネシア全土に広げることは1つの共通点だ。さらに、コーヒー1杯の値段を、スタバの半額以下(200円以下)に抑えることで、インドネシア全土に広がる中間所得層をターゲットとしているのも戦略として一貫性がある。
Kopi Janji Jiwaとコピクロの共通点をまとめると、
- 簡単起業パッケージの存在
- 中間所得層をターゲット
- インドネシア全土にエリアを拡大
が店舗数最大化の方程式と言えるのではないだろうか。
最近、Linkedin(リンクトイン)を見ていると、会社員をやりながらオーナーという肩書きでカフェを持っているインドネシア人をちらほら見かける。彼ら彼女らは、メインの仕事を持ちながら、本日ご紹介したようなフランチャイズに加盟し、カフェオーナーになっているのだろう。
どうだろう?あなたも今すぐカフェオーナーになってみてはいかがだろうか?(笑)
本当になるかどうかは別にして、このようなインドネシア人の起業力から学べきことは大いにあると思う。