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王興・張涛起業列伝④

筆者は2012年1月から6月まで中国の上海で働いていたことがある。当時を思い出すと、「外売(ワイマイ)するけど、いる人~?」という声がオフィス内でよく響き渡っていた。外売とは中国語でテイクアウトという意味である。筆者の勤めていたオフィスには飲食店のワイマイのためのチラシがあり、同僚の1人が電話で外売希望者の注文をまとめて行なっていた。テイクアウトと言っても、電話一本でお店の人がオフィスまで届けてくれるのだ。地元の中華料理だけでなく日本の弁当やハンバーガーもあり、結構美味しかったと記憶している。王興率いる美団がアプリで注文できる外売サービス「美団外売(Meituan Waimai)」を始めたのは2013年であるので、それよりも前の話である。

さらに時を遡ること2008年。上海交通大学の大学院生である張旭豪(Zhang Xuhao)が同じ大学の仲間達と「餓了么(ウーラマ)」を立ち上げる。張旭豪は当時、上海交通大学に通う学生が、大学に食堂があるにも関わらず、大学近辺の飲食店から食べ物を注文・購入しているとに注目していた。学生が同僚の分をまとめて買いに行く姿が多く見られたのだ。そこで、張旭豪は、インターネット上に飲食店のメニューを掲載し、ネット経由で注文を受け取り、買い物代行をして学生寮まで届けると言うサービスを思いついた。それが中国語で「お腹すいた?」を意味するウーラマというフードデリバリーサービスの始まりである。

ウーラマ創業メンバー(左から汪淵、叶峰、張旭豪、康嘉)

2009年4月にウーラマのWebサイトを公開して以来、瞬く間に学内に広まり、他の大学からも運営希望の申し出が相次ぐ反響であった。そして、ウーラマは大学づてに事業を拡大していくのである。この辺りはfacebook、中国で言うところの王興の校内網と似ている。共同創業者の張旭豪と康嘉は、学校を休学してウーラマに集中し、叶峰は卒業したもののマイクロソフトのオファーを蹴ってウーラマに参加し続けた。創業メンバーたちの努力も実り、2011年には資金調達までたどり着く。同年北京と杭州に進出を果たす。

そんなウーラマの事業を研究している人物がいた。王興である。王興はウーラマの買収も模索していたが、張旭豪が買収を拒否。王興も張旭豪も独立心が強く、どちらもグループ傘下には下りたく無いという性格だったと言われている。王興は買収を断念し、2013年11月に美団ネットワークを活かして美団外売をいきなり100都市で開始する。当時ウーラマはまだ12都市しか展開をしていなかったので、圧倒的な差を見せつけた形であった。グループ傘下では無いが、当時美団にはアリババが創業期の資金提供を行っている。対するウーラマは2014年5月に張涛率いる「大衆点評(Dazhong Dianping)」から8000万米ドルの資金調達を行い、一気に展開都市を拡大させる。そして、2015年1月にはテンセントや京東商城も加わり3億5000万米ドルもの資金が注入された。この時点では、美団・アリババ VS ウーラマ・テンセントである。

王興は「私と一緒に来い」と張旭豪に言ったのかもしれない。しかし、張旭豪は拒否。(キングダム607話より)

しかし、2015年10月、美団と大衆点評は合併し、中国最大級のO2O(Online to Offline)プラットフォーム「美団点評(Meituan Dianping)」が誕生する。筆者は、王興があくまで傘下に入らない経営(株式25%以上握らせない)にこだわったのだと考えている。そのために、美団の主力事業であるデリバリーフード、共同購入型クーポン、ホテル予約をより強固なものにしうる口コミが必要だったのかもしれない。2013年に買収を拒否した張旭豪も、2015年に再度話し合いの場を持ったようであるが、合意には至らなかった。そして、美団点評誕生後、アリババは9億米ドル相当の美団点評株を売却。さらに2015年12月、アリババグループが12億5000万米ドルをウーラマに出資し、株式の27.7%の支配するというニュースが流れ、翌年4月にその投資は実行される。テンセントは2016年1月に33億米ドルの美団点評への巨額出資ラウンドに参加している。つまり、お互いの支援者が入れ替わり、美団・テンセント VS ウーラマ・アリババになったのであった。

王興としては、共同購入型クーポンやホテル予約で競合していた大衆点評との戦いを終わらせただけでなく、大衆点評の口コミ資産を最大限に活用し、巨大グループの傘下になることなくフードデリバリー市場で戦える体制を築きあげるという奇跡い近い離れ業をやってのけた。しかし、合併したからと言ってウーラマ・アリババ軍に勝ったわけでは無い。激しい戦いはまだまだ続く。

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