インドネシア スタートアップ 外食産業

インドネシアの2大コーヒースタートアップ

前回、中国最大級のコーヒーチェーンに成長しつつある「瑞幸咖啡(Luckin Coffee)」をご紹介したが、本日はインドネシア版Luckin Coffeeの「Fore Coffee」と「Kopi Kenagan」を紹介する。両社とも昨年2018年秋にベンチャーキャピタルからの出資を受けて一気に拡大し、Fore Coffeeが2019年11月13日時点で93店舗、Kopi Kenaganが2019年12月11日時点で17都市195店舗である。Fore Coffeeは年内120店舗到達を目指し、Kopi Kenaganはフランチャイズ化によって一気に加速し、年内250店舗を目指しているという。2019年も間も無く終わりを迎えるが、Kopi Kenaganはここ最近1週間で約10店舗オープンさせており、目標の250はペース的には少し難しいように思える。

Fore Coffee
会社名:PT Fore Kopi Indonesia
創業:2018年8月
創業者:Robin Boe(CEO), Elisa Suteja(Deputy CEO)
投資家:East Ventures, SMDV(Sinar Mas Digital Ventures), Pavilion Capital, Agaeti Venture Capitalなど

Kopi Kenangan
会社名:PT Bumi Berkah Boga
創業:2017年8月
創業者:Edward Tirtanata(CEO)、James Prananto(COO)
投資家:Alpha JWC Ventures, Sequoia Indiaなど

両社を詳しく紹介する前に、世界とインドネシアのコーヒー市場をご説明したい。実際、両社の創業者はインドネシアのコーヒー市場に参入した理由として、1人あたりのコーヒー消費量に注目している。 

まずは世界のコーヒー生産量ランキングを見てみよう。

USDA「World Markets and Trade」から筆者作成

インドネシアは64万2000トンで、世界第4位につけている。世界のコーヒー生産量は年々増加傾向であるが、インドネシアの生産量は、だいたい60万トン台をキープしている。

USDA「World Markets and Trade」から筆者作成

シェアで言うと6.3%で、トップ4で世界の7割近いシェアを取っている。

USDA「World Markets and Trade」から筆者作成

次に消費量であるが、実は驚くべきことに、世界トップ4の生産量を誇りながら、1人あたりのコーヒー消費量は突出して低いのだ。インドネシアのコーヒー消費量を人口で割り算すると、1.1kg。コーヒー1杯が10gと計算すると、年間110杯、1日0.3杯という計算になる。同じコーヒー消費量のカナダと比較すると、カナダの1人あたりのコーヒー消費量7.9kgであり、年間790杯、1日2.16杯という計算になる。カナダ人はインドネシア人の7倍以上コーヒーを飲むのだ。ちなみに日本はと言うと、結構なコーヒー好きで、1人あたりのコーヒー消費量は3.9kgで、年間390杯、1日約1杯はコーヒーを飲む計算である。

そして、Fore CoffeeもKopi Kenanganもこのインドネシアのコーヒー消費量の伸び代に期待していると言うわけである。

しかし、両社のバックグランドは全く違う。Fore Coffeeの創業者Robin Boeは、大学卒業後、屋台のような小さなでコーヒー販売を始めた。場所は首都ジャカルタではなく、地方都市メダンである。その後コーヒー豆の輸出事業を行い、2012年に大学の同級生Jhoni KusnoとPT Otten Coffee Indonesiaを設立する。会社設立と共に、屋台ではなくしっかりとお店を構え、コーヒー豆やコーヒーマシンなど関連機器の販売も行い、翌年2013年にはオンラインショップも開設する。2015年にはEast Venturesからの出資を受け、スタートアップとして、EC事業に注力していくことになる。

Otten Coffee 2015年当時のECサイト

ところが、East Venturesの出資から2018年8月のFore Coffee創業まであまりニュースが見当たらない。2010年代前半はスタートアップブームで、EC領域も大小数多くの企業が挑戦していた。これはあくまで筆者の予想であるが、Otten CoffeeはEC事業において、当初の期待通りの成果を出すことができず、別会社としてピボット(事業転換)を余儀なくされてのだと思われる。Otten Coffeeだけで無く、インドネシアではバーティカル(1つの分野に特化した)ECビジネスで生き残るのはまだまだ非常に難しい。RobinがEast VenturesのElisa SutejaをDeputy CEO(CEO代理)と共に、再スタートしたのがFore Coffeeである。

Fore Coffeeは、2018年10月にEast Venturesから資金を調達し、同年12月にアプリをローンチ。翌年2019年1月にはSMDV、Pavilion Capital、Agaeti Venture Capital、Insignia Venture Partnersと複数のエンジェルから850万ドルを調達し、一気に店舗拡大を図り、現在に至る。

Fore Coffee シティーウォーク店(筆者撮影)

一方、Kopi Kenanganのバックグランドはコーヒーでは無い。Teaである。

Kopi Kenanganの創業者Edward Tirtanatahは、元々Tea Houseをオープンするという夢を持っており、大学卒業後、コンサルティング会社などで働いた後、2015年にLewis & Carrollをオープンさせる。Lewis & Carrollでは、インドネシアだけでなく、日本やアメリカ、中国など様々国の茶葉を扱っている。Edwardによると、インドネシアは世界第4位の茶葉輸出国であり、インドネシア産の茶葉も充実させた。ターゲットは女性、特に母親を狙って、近くに幼稚園があるPakubuwonoエリアに店を構えた。茶葉専門店は珍しく、Lewis & Carrollは女性富裕層に人気の繁盛店となっていった。

高級住宅街にあるLewis & Carroll(筆者撮影)

Lewis & Carrollの成功の次にEdwardが考えたのが、コーヒーである。Lewis & Carrollは富裕層向けであったため、店舗の拡大が難しい。「コーヒーであれば、もっとたくさんの人に飲んでもられる」「インドネシアには、スターバックスの高いコーヒーと、ワルンの安いコーヒーの間が無い。」そう考えたEdwardは、高校の友人James Pranantoと家具のスタートアップFabelioの共同創業者Christian Sutardiと共に、2017年、PT Bumi Berkah Bogaを立ち上げてコーヒーショップ「Kopi Kenangan」をオープンさせる。最初の投資資金2億ルピア(約150万円)は、なんと約3ヶ月で回するというスタートダッシュであった。その後、ベンチャーキャピタル会社Alpha JWC Venturesに注目され、2018年10月に800万ドルの投資を受け入れるに至る。

できたばかりのKopi Kenangan UOB Plaza店(筆者撮影)

前々回に記事にしたコピクロも然り、インドネシアのコーヒー市場は出店ラッシュで急拡大中であるが、Fore CoffeeとKopi Kenanganが他社コーヒーショップと大きく違うのは、外部から10億円もの資金が投入されている点と、それによって中国Luckin CoffeeのようなITテクノロジーを中心とした戦略が立てられている点である。実際、Fore Coffeeの本社社員(バリスタは別)は半数以上がエンジニアで構成されている。

ITの融合によって、進化するインドネシアの外食産業。これからも注目していきたい。

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