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パーソナライゼーションとD2C化が変える世界

キーノートに登壇するマイクロソフトCEO Satya Nadella(サティア・ナデラ)

NRF2020のキーノートスピーチでマイクロソフトCEO Satya Nadella(サティア・ナデラ)は、デジタルトレンドとしてまず「Personalization(パーソナライゼーション)」を取り上げた。ナデラ氏によると、「EC売上の30%はレコメンドを起点としている。そして長期的にも増加傾向にある。なぜなら80%以上の消費者が自分が気に入る商品やサービスをおすすめしてくれる事を期待しているからだ。」とのことである。そして、続けて自社のXboxの例を引用して、どんなデバイスで、どんなページを見て、どのゲームを購入しているのかをリアルタイムで分析し、レコメンドエンジンに学ばせていることを紹介した。

前回の記事で、「Automation(オートメーション/自動化)」について、NRF2020出展企業の事例を紹介したが、パーソナライゼーションは、自動化によって小売店や飲食店の現場から取得したデータを個々の顧客に活かして行くということで繋がっているのだ。例えば、スターバックスやアマゾンがレジを無人化させることで、顧客はスマートフォンを使って注文や購入を行い、いつ・何を・どんな人が購入したかのデータが取得できる。頻繁に購入してくれるロイヤルカスタマーにお礼のギフトクーポンを送って関係を強めたり、あまり来てくれない人にはその人の趣向に合わせた新商品情報を送ったりすることも可能だ。また、個々で得られた情報は商品戦略や出店戦略に活かすこともできる。例えば、地域にあった商品、地域にあった店舗、時間帯ごとに商品や棚の置き方を変えるなど、データを駆使して考えることはたくさんある。

ここまでオートメーションとパーソナライズに触れてきたが、読者の中では小売店や飲食店が機械的な無機質なものになっていくと思う方もいるかもしれない。スマホに誘導されて店舗に行くと、自分の大好きなものが自動的なものが目の前に並んで、それを手に取って、レジの人と顔を合わせることなく購入できてしまう世界だ。しかし、NRF2020に登壇した米Neighborhood Goods(ネイバーフッドグッズ)のCEOであるMatt Alexander(マット・アレクサンダー)は「人間関係に焦点を当てたい」と顧客とのコミュニケーションの重要性を強調している。

セッションに登壇するマット・アレクサンダー(一番右)

ネイバーフッドグッズは自らを「A new type of department store(新しいタイプの百貨店)」と称する、小売のスタートアップである。彼らはインスタグラムなどで顧客に直接商品を販売するD2Cブランド(direct- to-consumer brands)たちに、月額費用で短期的に販売スペースを貸し出している。各販売スペースには、ブランドロゴが見えるようになっており、ネイバーフッドグッズは各ブランドの良さを顧客に伝えて回るのだ。ネイバーフッドグッズ専用アプリからスタッフを呼ぶこともでき、顧客との対話は人が行う。つまり、オートメーションは人間しかできないヒューマンタッチな仕事に集中させるためのソリューションに過ぎないということである。

ネイバーフッドグッズ店内(Bethany Biron/Business Insider)

米SHOWFIELDS(ショーフィールズ)もネイバーフッドグッズと同じビジネスモデルの百貨店である(両社とも新興D2Cブランドにスペースを貸しており、日本のメディアにはD2C百貨店と呼ばれていたりする)。ショーフィールズはニューヨーク NOHO(ノース・オブ・ハウストン・ストリート)地区にある1913年築の古い建造物を改装した4階建ての百貨店だ。こちらは対話よりも空間や雰囲気を重視しており、特徴的なのは1日に複数回行われるショー形式のツアーである。俳優らが、演技を交えて取り扱うブランドの商品を紹介するのだ。

ショーフィールズの4階建店舗(Bethany Biron/Business Insider)

ネイバーフッドグッズもショーフィールズもニューヨークに店舗を構えるが、当たり前だが家賃が非常に高いエリアである。小さな店舗であっても、SOHO地区で店舗を構えると、月額で2万5000米ドル(約270万円)程度はかかってくる。おまけに、販売スタッフも雇って、宣伝・広告も行うのは、小さなD2Cブランドにとっては非常に大変である。ショーフィールズのCEOであるTal Zvi Nathanel(タル・ズヴィ・ナサネル)は、そういった小さな店舗やブランドを変革したいという思いをNRF2020で語っている。

このようにまさに「新しいタイプの百貨店」を体現するネイバーフッドグッズとショーフィールズであるが、単純に小売業と表現しづらい。かと言って、場所を借りているのでリテールテックとも言えない。weworkのようなCo working space(コワーキングスペース)的な表現があっている気もする。weworkも、スタートアップでは借りることのできない一等地ビルのスペースを借りて、誰もが働きたいと思えるような雰囲気の良いデザインでワークスペースを切り売りしている。
新しいタイプの百貨店は、Co department store(コーデパートメントストア)と名付けたいぐらいだ。

筆者がインドネシアで取り組みたかったビジネスの1つに、以前紹介したクラウドキッチンがあるが、これも言い方を変えればCo cooking space(コークッキングスペース)で、ネイバーフッドグッズやショーフィールズと同じ文脈である。そして、入居するフードブランドはUberEats(ウーバーイーツ)のようなフードデリバリー事業者を使って直接顧客に販売するD2Cレストランだ。ファッション、コスメ、フード、それぞれがD2C化し、それらを支援すべくプラットフォームが存在する。D2Cブランドたちは、それぞれインスタのようなSNSを使ってパーソナライズなマーケティングを行い、プラットフォームはオートメーションを使ってスケールの大きなパーソナライゼーションに取り組むことができる。スタートアップが勢いを増すことで、旧態依然の小売店や飲食店は変革を迫られるであろう。新旧切磋琢磨して時代が切り開かれるエキサイティングな時代である。

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