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2022年アジアパン革命が起こるかも

筆者がパン業界に関わるようになって目がパンになってしまったことが多分にあるかもしれないが、2022年、アジアでパン革命が起きると考えている。いや、実際もう既に小さな噴火はいくつも起きている。今回は、2022年アジアパン革命について解説していきたい。

まず革命の定義からしておくと、「今まで一般的だったルールが、逆さまになるような出来事」とする。トランプのゲーム「大富豪(地域によては大貧民)」で、同じ数字が4枚揃ったら、カードの強さが逆転するそれである。つまり、革命前と後で、大富豪が大きく入れ替わるということである(※ゲームのように必ずしも貧民が増えるというわけでは無い)。

革命の前兆はコロナ前(2019年以前)からあった。キーワードは2つ、「クイックコマース」と「クラウドキッチン」だ。

クイックコマース(Qコマース/Quick Commerce)
一般的に数日間かけて商品を配送する電子取引(Eコマース)の中で、30分以内に配送される即配サービス。日本ではコロナ禍に「UberEats」や「出前館」のようなフードデリバリーが急成長した。

クラウドキッチン(Cloud Kitchen)
店頭販売やテーブルサービスを持たないフードデリバリーを専門に行うためのキッチン設備。複数の飲食事業者や飲食ブランドが、1つのキッチンを共有(シェア)するような効率的な使われ方が多い。

クイックコマースに関しては、このブログで何度も記事にしているように、コロナ前の2019年以前からバイクタクシー配車アプリが盛り上がり、食品や日用品をアプリ経由でバイクタクシーに運んでもらうことが当たり前の世の中になっていた。インドネシアではgojekという地場企業が市場に火をつけ、タイでは「foodpanda(フードパンダ)」「Grab Food(グラブフード)」「LINE MAN(ラインマン)」など、外資の力で大きくなり、まさに既存のタクシーや飲食の市場をひっくり返す革命が起きていた。

【参考】
インドネシア宅配革命 〜Gojekの誕生〜
タイの4大フードデリバリーサービス①
タイの4大フードデリバリーサービス②

そのような中、このクイックコマースを最大限に活用するスタートアップがどんどん出現してくる。火付け役となったのは中国の「瑞幸咖啡(Luckin Coffee/ラッキンコーヒー)」だ。ラッキンコーヒーは専用アプリで事前に注文して簡単ピックアップができたり、先程ようなフードデリバリー事業者に運んでもらったりなど、一般的なコーヒーショップの「列に並ぶ」「店頭で注文」「店頭で待つ」などの無駄を省いた、まさにクイックコマースの申し子のようなサービスである。ラッキンコーヒーは、2018年の元旦に1店舗目をオープンしてから同年2000店舗到達。2年目には4500店舗に到達し、当時中国国内で4000店舗展開していたスターバックスを抜き去る。途中2019年5月、会社設立18ヶ月という史上最短記録で米国ナスダック市場に上場。様々な金字塔を打ち立て、その成功事例は海を渡り、インドネシアでは「Fore Coffee」と「Kopi Kenangan」の2つのコーヒースタートアップが誕生している。

36kr Japan参照

ちなみに筆者が最初にラッキンコーヒーの記事を書いたのは2019年11月で、その後は別の意味で世間を騒がせていた。2020年に不正会計問題が起こり、ピーク時に120億ドル(約1兆3200億円)あった時価総額は、数億ドル(数百億円)にまで落ち込んでしまったのだ。そして、上場からわずか13カ月後の2020年6月末、ナスダック市場への上場も廃止となってしまう。しかし、不正会計や株価激減でも一般消費者の信頼は揺らぐことは無く、2020年12月、米国証券取引委員会(SEC)に、和解金1億8000万ドルを支払い、なんと2021年4月には2億5000万ドル(約270億円)の資金調達を成功させている。そして、先月発表された2021年第3四半期の財務報告によると、売上高は前年比105.6%増の23億5000万元(約419億円)、店舗数は5671店舗で、引き続き拡大を続けているのだ。

クイックコマースの発展よって生まれたものはコーヒースタートアップに限らない。クイックコマースは販売やテーブル用のスペースを必要としないため、調理スペースをシェアするクラウドキッチンが生まれ、成長を続けている。

クラウドキッチンが大きく広まった国の1つにインドがある。以前筆者が記事にした2020年1月時点では、クラウドキッチンの大きな成長が見込めると考えていた。しかし、直後に新型コロナウイルスである。インドは、コロナ禍によるダメージが大きく、ウイルス感染者数と死者数共に、世界のトップ3に入ってしまっており、厳しいロックダウン統制が取られた。

しかし、そのような状況下でも、インドの2大クラウドキッチン事業者の一角であるZomato(ゾマト)はIPOを果たし、ソフトバンクも出資するSwiggy(スウィギー)は近々7億ドル規模の資金調達を行いデカコーン(評価額1兆円企業)の仲間入りを果たすのでは無いかと言われているのだ。現在、新規でクラウドキッチンを増やすことは非常に難しいが、国内の稼働していないキッチンをクラウドキッチン化するなど有効活用し、工夫をこらして成長を続けている。

【参考】
インドのフードテック巨人Zomato(前編)
インドのフードテック巨人Zomato(後編)

東南アジアでも、このコロナ禍にクラウドキッチンが大活躍している。ショッピングモール文化の東南アジアでは、ロックダウンによってモール閉鎖となると、出店する飲食店にとって大損害となってしまう。そこでクイックコマースやクラウドキッチンが活躍するというわけである。特にチェーン展開を行う飲食店は、モールに出店することも多く、2020年はクラウドキッチンの取り合いになっていたと現地の飲食企業から聞いたことがある。

この「クイックコマース」と「クラウドキッチン」がどのようにパン業界、ベーカリー業界に関係しているのか?実は具体的な出来事が、インドネシアで起きている。

第一に、コーヒースタートアップのベーカリー参入である。主役は前述のインドネシア版ラッキンコーヒー「Kopi Kenangan(コピクナンガン)」だ。2017年に設立されたコピクナンガンは、2022年1月現在、600店舗を超えるまでに成長し、スターバックスの487店舗(2021年10月3日時点)を凌駕している。スターバックスのインドネシア1号店は2002年出店ということを考えると、物凄い成長スピードだ。そのコピクナンガンが力を注ぐのがベーカリー事業である。2020年11月に、ベーカリーブランド「Cerita Roti(チェリタロティ)」を立ち上げたのだ。そこからコピクナンガンの店舗内を中心に一気に導入を進め、翌年2021年7月には400店舗を超え、2022年1月時点のCerita Roti公式インスタグラムアカウントでは480店舗と記載されている。

ジャカルタのショッピングモール「パシフィックプレイス」内のCerita Roti店舗
パシフィックプレイスWebサイト参照

コーヒーショップのベーカリー事業参入自体は珍しいことでは無い。例えば日本でもスターバックスが2019年7月にイタリアンベーカリー「Princi(プリンチ)」1号店を東京代官山にオープンさせている。また同時期に「猿田彦珈琲」も東京池袋にベーカリー「オキーニョ」をオープン。最近では2021年9月、銀座ルノアールが埼玉県の郊外エリアに「BAKERY HINATA」をスタートさせている。コピクナンガンも同様と思われるが、パンを扱う事によって新たな差別化要素をつくり、さらにテイクアウトやデリバリーの需要を狙った形である。

特にインドネシアでは、コピクナンガン以外にも店舗を急激に増やすプレイヤーが複数存在し、非常に競争が激しくなっている。例えば、コーヒー市場で最大店舗数を誇る「Kopi Janji Jiwa(コピ・ジャンジ・ジワ)」は2022年1月現在で900店舗以上を展開し、「JIWA TOAST(ジワトースト)」というベーカリーブランドを300店舗以上展開している。

そんな激戦市場で戦うコピクナンガンだが、先月2021年12月に、シリーズCラウンドで1兆3,000億ルピア(約105億円)の資金調達を完了している。そして、今回の調達でユニコーン(時価総額1000億円企業)であることを発表したのだ。スタートアップの飲食・小売系では初ではないだろうか。

第二は、スタートアップによる大手ベーカリーの企業買収である。先月2021年12月に、クラウドキッチン事業を展開するDailybox Groupが、前回も紹介したインドネシア3位の160店舗を展開する「Bread Life(ブレッドライフ)」を買収したのだ。Dailybox GroupはThe Daily Groupの一部として2018年に設立されたスタートアップであり、買収時点で120拠点ものクラウドキッチンを運営している。Dailybox Groupのクラウドキッチンを活用して、パンのデリバリー市場をつくる狙いであろう。ブレッドライフはショッピングモールにも多く出店をしており、コロナ禍のロックダウンにより大きなダメージを受けていたに違いない。

Dailybox GroupとBreadLifeの共同記者会見
marketeers.com参照

スタートアップによる業界大手の企業買収は飲食だけでは無い。2021年9月、ECスタートアップの「Blibli(ブリブリ)」が、高級食品スーパー大手の「Ranch Market(ランチマーケット)」を買収したのだ。日本で例えると、上場前の「楽天」が「成城石井」を買収するようなものだろうか。ランチマーケットもショッピングモールを中心に出店している。ランチマーケットもブレッドライフも、ITスタートアップによるデジタル化によって、クイックコマースを活用したコロナ禍を生き抜く戦い方に対応していくのであろう。

パンはクイックコマースやクラウドキッチンといった新しい戦い方にフィットしやすい商品であり、特に東南アジアではパン市場全体が拡大している状況である。そのような背景によって、今回紹介したような新規参入や企業買収はもっと増えてくると考えている。

最後に冒頭のトランプゲームの大富豪で纏めさせて頂くと、アジアパン革命に必要な4枚のカードは以下である。

  • クイックコマース・クラウドキッチン
  • アジアのパン市場の成長
  • 既存大手企業の衰退
  • ユニコーン企業の登場(スタートアップへの資本投入)

この4つが同時に高まった時に革命が起こると筆者は考えていて、具体的な事例を本記事で紹介させて頂いた。ただ、あくまで筆者の現時点での考えであるので、実際は他のカードが存在するのかもしれない。例えば、フローズン(冷凍)テックというカードも存在する。あるいは、ソフトバンクやアマゾンのような巨大資本がジョーカーとして入ることで、強制的に革命を起こすこともできるかもしれない。実際、ソフトバンクは前述インドのスウィギーや先月12月にIPOを果たした東南アジアのGrabなどクイックコマース関連事業者に出資しているし、アマゾンもインドでのフードデリバリー事業「Amazon Food」を強化している。

  • 火種:業界を変える新技術
  • 環境:既存の巨大市場の存在
  • 引き金:既存の大手企業の衰退
  • 燃料:巨大資本

革命の方程式はこのように置き換えることが出来て、どんな業界にも使えるのでは無いだろうか。

自動車産業であれば、

  • 火種:新しいバッテリー技術とIT技術
  • 環境:巨大な炭素経済
  • 引き金:既存の大手企業の成長頭打ち
  • 燃料:国からの脱炭素社会に向けた支援

フランス革命であれば、

  • 火種:民主主義という新しい考え
  • 環境:絶対君主制
  • 引き金:国の厳しい財政難
  • 燃料:国民の98%を占める一般市民と農民

革命の方程式で新たな記事が書けてしまいそうなので、一旦ここで止めておく(笑)。
とにかく、パン市場は未来は明るい。大小新旧いろんな会社にチャンスがある。

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