中国テクノロジー業界を代表する企業と言えば、百度(Baidu)、アリババ(Alibaba)、騰訊(Tencent)の頭文字をとってBATと呼ばれている。特にアリババとテンセントの時価総額は50兆円を超え、世界でもトップ10入りするほどの企業である。日本最高位のトヨタでも25兆円だ。そして、BATの次の世代も既に頭角を表してきている。今日頭条(Toutiao)、美団点評(Meituan Dianping)、滴滴出行(Didi Chuxing)の頭文字をとってTMDと呼ばれているのだ。TMDの一角である美団点評は、2015年に美団(Meituan)と大衆点評(Dianping)が合併した会社である。本日は、その美団点評にフォーカスし、美団の創業者王興と大衆点評の創業者張涛の起業物語を紹介する。
王興起業列伝
王興は1979年2月18日福建省に生まれ、1997年に中国の清華大学に入学する。清華大学は、テクノロジー領域では中国トップで、QCアジア大学ランキング2020でも4位(日本トップの東京大学は12位)に入っている名門校である。王興は2001年に清華大学卒業後、2003年に米国デラウェア大学でコンピュータ工学の博士号をとるために渡米する。この渡米が彼の最初の起業に大きく関係していく。2003年と言えば、かのfacebook創業者であるMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)が、ハーバード大学コンピュータ科学専攻2年生の時で、ちょうどFacemashを作った年である。いたずら心で作ったFacemashはすぐに停止となり、大学からは謹慎処分にされてしまうが、それが2004年2月のThe facebook(開設時はTheが付いていた)ローンチに繋がっていく。開設当時、ハーバード大学の学生限定であったSNS、facebookは噂を聞きつけた他大学の強烈なニーズに後押しされ、一気に他大学にも解放されていく。そして、2005年終わりには全米の大学に広まっていた。
王興はというと、facebookが世にでる少し前から当時SNSとして初めて100万人の会員数を超えたFriendstar(サービス開始は2002年)を研究し、多多友というSNSを立ち上げていた。その次に、游子図というサービスの立ち上げにもチャレンジしていた。游子図はSNSでは無く、中国人留学生がWeb上に写真をアップすると、中国で写真にして両親や友人に送り届けてくれるサービスである。いくつかインターネットサービスを運営していたものの、大きな収益は得られていない状況であった。そんな中、facebookが学生内で盛り上がりを見せ始めたのである。王興はfacebookを徹底的に研究し、2005年12月に清華大学時代の仲間達と校内網を立ち上げる。それが後に中国版facebookとして有名になる人人網(レンレンワン)の始まりである。
校内網は、開始3ヶ月で3万人のユーザーを獲得する素晴らしい船出であった。しかし、ユーザーが増えるにつれ、サービスを維持するためのサーバーコストが嵩んでいく。そんな中現れたのが、陳一舟である。陳一舟は1969年生まれの王興より1世代上の起業家である。マサチューセッツ工科大学(MIT)で修士号取得し、スタンフォードでMBAを取得した陳一舟は、1994年創業のYahoo!(ヤフー)に影響を受け、1996年から起業家として中国でインターネット事業を行なっていたが、ネットバブル崩壊後、2002年11月に千橡互動を創業し、5Q校園網という校内網の競合サービスを運営していた。その千橡互動が、2006年10月23日に校内網を200万米ドルで買収し、校内網は首の皮一枚繋がったのであった。校内網と5Q校園網は統合し、2009年8月4日に人人網(レンレンワン)に改名。学生だけでなく一般公開される。そして、レンレンは2011年5日5日、ニューヨーク証券取引所に上場し、時価総額71億米ドル(約5700億円)となったのである。当時は、冒頭のBATに続く4番目の規模であった。
しかし、上場時の写真に王興の姿は無い。売却後、千橡互動には長く留まらず、すぐに新しい事業を起こしていたのである。まず最初にローンチさせたのは、2007年5月12日、Twitterのようなマイクロブログサービス飯否(Fanfan)である。さらに同年11月16日、新しいSNS海内(Hainei)をスタートさせる。しかし、飯否も海内も上手く成長させることができず、2009年に閉鎖してしまう。2009年後半から、新浪(Sina)、網易(NetEase)、騰訊(Tencent)、捜狐(Sohu)などの中国国内大手ポータルサイトがマイクロブログサービス開始し、特に新浪微博(Sina Weibo)が急成長したので、少し早過ぎたのかもしれない。
その次の挑戦は、グルーポンのような共同購入型クーポンサイト美団(Meituan)である。美団は2010年3月4日にサービスを開始する。2010年当時、中国の共同購入サービス市場は一気に盛り上がり、市場規模は日本円にして5300億円で、6000を超えるコピーサービス出てくる乱戦状況であった。そんな中、美団は創業時にセコイアやアリババから資金調達に成功したことで競合他社に対して優位に立ち、2013年には市場シェアを53%獲得する。そして、2014年には年間取引高が前年比180%成長の460億元(約7360億円)を超え、市場シェアは60%まで到達していた。翌年1月、王興は美団がそれまで7億米ドルの資金調達を行い、時価総額は70億米ドルになったことを発表した。