前回から引き続き、王興率いる「美団外売(Meituan Waimai)」とアリババグループ傘下となった餓了麼(Ele.me/ウーラマ)の戦いを書いていくが、冒頭で少し中国の外食市場について触れようと思う。
まず、中国の外食産業の市場規模であるが、中国調査機関のchinairr.orgによると、2018年は4兆2716億元(約67兆円)で、2020年には5兆1897億元(約81兆円)に達すると予想されている超巨大市場である。日本はここ数年25兆円近辺で横ばいであるので、約3倍の市場規模である。近年成長率が鈍化したが、それでも10%弱の成長率だ。
この急成長している中国外食産業の中のデリバリー市場はさらに桁外れの成長しており、中国の調査会社Trustdataによると、2019年の取引量は前年比で30.8%拡大し、6035億元(約9兆4000億円)に達すると予想されている。また、先ほどの外食市場全体のデータと照らし合わせると、デリバリー比率は12.7%に達するという計算になる。外食・中食市場情報サービスのエヌピーディー・ジャパンによると、2018年の日本のデリバリー市場規模は前年比5.9%増の4084億円で、デリバリーが可能な飲食店の市場は14兆円であるので、デリバリー比率は2.9%ということになる。つまり、デリバリー市場は日本より中国の方がめちゃくちゃ進んでいるのだ。
外食市場も伸びている上に、デリバリー比率も伸びているという、美団外売とウーラマが戦う市場は、このような急成長業界なのである。
アリババグループ傘下となったウーラマは、同グループの決済システム「アリペイ(Alipay)」とライフスタイル情報メディア「口碑(Koubei)」との連携を強化して美団外売に対抗し、2016年はほぼ互角のシェア争いを繰り広げる。ビッグデータリサーチ社の調査によると、ウーラマの市場シェアは34.6%、美団外売は33.6%、百度が2014年に開始したフードデリバリー 事業「百度外売(Baidu Waimai)」が18.5%と、三つ巴となっていた。
2017年に入ると、6月にアリババグループがウーラマに10億米ドル(約1090億円)の追加出資を行う。その時点で、アリババの株式保有率は、32.94%となっていた。その後8月にウーラマは百度外売を8億ドル(約870億円)で買収し、3強時代は終わりを迎え、美団外売との一騎打ちの構造となる。中国リサーチ会社の易観(Analysis)によると、買収完了時点の市場シェアはウーラマと百度外売の合計で48.8%、美団外売が43.1%で、ウーラマ一歩リードという状況になっていた。
2018年には中国フードデリバリー市場において、2つの大きな出来事が起こる。まず、1つ目。段階的に株式保有率を高めてきたアリババグループは、ついにウーラマの完全買収を行ったのだ。ウーラマの企業価値を95億ドル(約1兆1400億円)と評価しており、完全買収のための追加出資は50億ドル(約5200億円)前後と言われている。その流れで同年10月、ウーラマと口碑のサービス統合も行なった。また、百度外売もこのタイミングで「餓了麼星選(Ele.ma Xing Xuan)」に変更し、高級料理向けデリバリーの新ブランドとした。
もう1つの大きな出来事は、美団点評の香港株式市場上場である。前々回の記事でも書かせて頂いたが、2018年9月、美団点評はIPOによって市場から325億香港ドル(約4700億円)を調達し、時価総額は約5兆7000億円に達した。調達方法は違うが、両社とも2018年に5000億円規模の資金を集めたのであった。
美団点評は上場したということで、2018年12月期の初決算を迎える。同期の売上高は前年比92%増の652億元(約1兆800億円)。利益面では1154億元(約1兆9000億円)の最終赤字となり業績開示以降、4期連続の最終赤字。これは今まで記事で書いてこなかったが、美団点評が2018年4月に買収した自転車シェアリングサービス「摩拝単車(モバイク)」が大きく足を引っ張っていたのだ。株価もIPO時の公募価格を割り、上場ゴールと揶揄されていた。しかし、そんな中でも主力のフードデリバリー事業は虎視眈々と善戦を続けていた。美団外売は2018年下半期に新たなマーケティング施策として、メンバーシップ制度を導入。メンバーシップ登録者を優遇し、購入頻度を一般ユーザーの3倍以上にアップさせたのだ。さらに2019年第二四半期では、今までのディスカウント合戦を廃止。登録ユーザーへの付加価値で勝負するように戦術を変えて行ったのだ。
それが功を奏してか、じわじわとシェアを広げ、2019年第二四半期(4~6月)には65%を超えるまでに拡大。決算発表では、純利益が15億元(約225億円)に達し、初めて黒字化を実現したのであった。フードデリバリー事業を覚醒させることに成功した美団点評は、次期の第三四半期(7~9月)でも二期連続となる黒字化を達成。売上高は前年同期比44.1%増の275億元(約4245億円)で、市場予想の260億元(約4000億円)を上回った。この勢いのまま2019年通期でも黒字化を達成する予定である。
王興の起業家人生を振り返ると、中国版facebook「人人網(renren/レンレン)」の元になった「校内網」、中国版twitterの飯否(Fanfan)、SNSの海内(Hainei)、中国版グルーポンの「美団網(Meituan)」、フードデリバリー の「美団外売(Meituan Waimai)」など、様々なサービスの立ち上げに挑戦し、もちろん全て成功するわけではなく、飯否や海内は閉鎖し、人人網も王興が離れてから閉鎖している。投資した自転車シェアリングサービス「摩拝単車(モバイク)」も大赤字である。わかりやすので、中国版〇〇と書かせて頂いたが、アメリカで流行ったサービスのコピーが、自国でも確実に流行るわけでもない。大きな挑戦には、大きなお金が動き、大きなプレッシャーのもとで戦い、世間から大きく叩かれることもある。それでも起業家は誰が何と言おうと、何度でも挑戦する。王興は中国を代表する起業家であり、このシリーズを書くにあたって多くのことを学ばせて頂いた。連続挑戦者に敬意を表して、このシリーズを終えたいと思う。